Artist statement

結晶や鉱物を手がかりに心象風景の絵画を描いています。

透明な結晶内で多面的に屈折していく景色や光に着目し、移ろう自然光や絵画ならではの時間軸の表現を、ストライプやグラデーションを取り入れた風景画で試みています。

石の模様によって触発されるイメージの変遷や屈折の視点を、印象派や多視点のキュビズムの理論と重ねることで、日本人特有の景色の移り変わりに対する美意識を作品に落とし込もうと試みています。

絵画のイメージの起点は、水晶などの透過性の高い結晶のヒビや模様が景色のように感じた所から始まりました。そして、結晶面の屈折と反射で多面的に変化する図像を手がかりに、マスキングの技法で区切られていくタイムラプス(時間経過)的な風景の構想が生まれました。

鉱物から風景を生み出す事で、抽象と具象の視点を石になぞらえて一度解体、再解釈、そして言語化し、ミクロの視点からマクロの風景へと繋がっていく心象風景の世界を描いています。

現在は故郷の長野で育った体験を元に、雄大な山々や森林、景色が映り込む水面等のシリーズを中心に制作しています。

記憶と共に長く蓄積されてきた山々の表情や、四季折々で変化する自然環境の情報を再解釈し、それを絵画作品として新たに組み立てていこうと試みています。

季節や時間帯、被写体との距離によって表情が大きく変化する山々は、描画のテクスチャ表現をダイレクトに生かせるため、絵画との親和性が高いモチーフです。空気遠近法や陰影法の表現が効果的に働く事も特徴の一つです。

アジア圏で見られる山水画のような大気や湿度の描画表現なども現在のグラデーションの技法の中に取り込んでいます。かつて構造を解体して描いたセザンヌや、対象を平面性で捉えた葛飾北斎の絵画にも山というモチーフは現れ、美術史の中で頻繁に登場してきました。

このように、私は石を手がかりに、今までになかった新たな視点を模索し、光や時間の移ろう風景を描く中で、油彩と言う技法を通じて日本的な美意識を体現し掲示してみようと試みています。